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ピストバイクのブレーキについて
先日の記事ではピストバイクのルーツやロードバイクとの違いについて触れました。今回はより掘り下げ、ブレーキまわりについてご紹介させて頂きたいと思います。それでは、いってみましょう。
なぜブレーキが必要であるか
そもそも論ですが、なぜ自転車にブレーキが必要なのでしょうか。当たり前過ぎて大多数の方は考えもしないと思いますが、自転車の速度を調整する(減速)、走行中の自転車を止めようとする(制動)、一時停車中に空走しないようにする(停車)この3つの動作を行う為です。
競技用ピストバイクにはブレーキが備わっていません。街乗り用にカスタムした車両には後述の法律問題もあり、ブレーキが原則前後とも装着されています。ペダリングの操作によって「減速」、「制動」、「停車」全て行うこともできますが、かなりの練習量をライダーに要求します。更に、日本国内においては前後に制動装置が備わっていない車両は走行できません。大多数の他国も同じような法律が敷かれています。
ざっくり言いますと「付けなくても制御できる人は制御できるが、法律的に付けないといかんですよ」と云う事です。
それでは、次にその法律周りの縛りを詳しく見ていきましょう。
ブレーキにまつわる法律周りのお話
ピストバイクは道路交通法における「普通自転車」に該当します。
「自転車」は、「軽車両」扱いとなり、違反をすると様々な罰則が科せられる場合があります。
「自転車」の定義
ペダル又はハンドクランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車であり、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものを指します。
「普通自転車」の定義
一般に使用されている自転車で、車体の大きさ及び構造が内閣府令で定める基準に適合する自転車で他の車両をけん引していないものを指します。
ピストバイクはこれですね。
法律に抵触する恐れのある項目は以下のものです。
「“内閣府令で定める基準に適合するブレーキを備えていないために、交通の危険を生じる恐れのあるもの”や夜間において、前照灯がつかず、また、後部反射器材又は尾灯が備え付けられてないものは公道を走行してはいけない。」
前照灯うんぬんはロードバイクにも言えますが、ブレーキについてはノーブレーキピストのことを言っていますね。更に、ブレーキの性能についても言及があります。
「ブレーキは前輪及び後輪にかかり、時速10キロメートルのとき、3メートル以内の距離で停止させることができること。」
こちらはビンテージ品だったりしない限りは大体のブレーキが性能をクリアすることができます。最近気になるのがブレーキトラック(当たり面)のないホイールにブレーキを装着している車両をチラホラ見受けることでしょうか。これは十分に制動性能が効きませんので、上記の制約に抵触する恐れがあり大変危険です。当たり面の処理がされていないのでブレーキング動作によりリムの塗装も剥げてしまいます。外観上も望ましくありませんね。
↓こんなのですね。
ブレーキの装着方法
ブレーキの必要性が理解できたところで、次に装着方法を考えてみましょう。
大きく分けて3つのパターンが考えられます。
・競技専用カーボンフレーム(装着不可)
・競技専用競輪フレーム、海外フレーム(加工で装着可)
・国内販売の街乗り用ピストバイク(装着可、もしくは既に備わっている)
競技専用カーボンフレームについては公道での使用を諦めるか、かなり大掛かりな特殊施工が必要です。原則として無理と考えるのが無難です。
例)BMC TRACKMACHINE 01、LOOK 875 RS等
競技専用競輪フレーム、海外フレームについては以下の画像のようにフロントフォークやステーに挟むタイプの台座を装着した上でロードバイク用ブレーキを取り付けるか、フレームに穴を開ける加工を施すことで装着が可能です。
挟み込む手法は割と古風な方法であり、昔はホームセンター等に出向いてプレートを購入し旋盤で削って・・・といった自作が必要でした。懐かしいですね(笑)今となっては様々なブランドやビルダー様が制作されたアイテムがバイクパーツとして流通しています。
・DIA-COMPE ピストプレート
恐らく最も流通しているであろう最安価パーツがこちら。
リア側用で板で挟むだけな簡易取り付けです。フレームにダメージが掛かる上に走行中の脱落が発生する恐れがあり正直おすすめできません。チョー危ない。
装着場所はロードバイクのようにシートステーを挟む形で装着する方法が一般的ですが、目立たせたくないという名目でTTバイクのようにBB裏に移設しているバイクも見かけます。こちらはブレーキのワイヤーリードの方向を工夫したりと難易度が高いカスタムになります。
・tempra Cycle Brake Plate Classic Hairline Finish
こちらはフロント側です。
フレームのラグのようなラグジュアリーな外観が所有欲をそそりますね。
ただ単にブレーキを付ける台座という訳ではなく、洒落が効いたデザインに仕上がっています。他にもイナズマ形状や可愛い模様もあったり。
Kimori アリウムブレーキアダプターF/R
台座自体をアクセサリパーツとして楽しむのならこういった高級品もあります(生産終了しています)
最近のバイクでは穴を開ける前提でホールガイドが備わっていたりするバイクもあります。日本国内モデルと海外モデルでブレーキホールの有無がことなるものも多くラインナップされています。有名所ではAFFINITY CYCLEやcinelliのフレームは国内モデルにはブレーキホールが備わっていますが、海外仕様では穴が閉じたままになっています。
国内販売の街乗り用完成車は基本的に前後ブレーキが標準装備されています。外れた状態で売られていても商品付属品として付いてきたりといった感じですね。こういったバイクは取り付けに四苦八苦する手間もなく、街乗り前提で検討するならこちらをチョイスするのが正解でしょう。人気どころではFujiブランドの人気がずっと高い状態が続いています。Featherシリーズがロングセラーモデルとして挙げられますが、最近では前下がり(パシュート)フレームのARCVも非常に人気です。
最近ラインナップとして増えてきたミニベロタイプのシングルバイクも基本的に前後ブレーキが備わっています。TERN SURGE UNOやMASI minivelo FIXEDが人気ですね。いずれもミニベロのコンパクトさを活かしつつ、小回りが効くギア比が設定されており快適なシティライドが楽しめます。
固定ギアの制動方法について
次に、固定ギアバイクの制動方法について深堀りしていきましょう。
大きく分けてスキッドと呼ばれるテクニックを用いる方法と、ロードバイクのようにリムブレーキを用いる方法の2種類があります。
前者はトリックと呼ばれる自転車芸の基礎の一つでもあり、少々練習が必要な動作です。後者はデイリーのシティライドで用いる自転車装着のブレーキで制動する方法になります。
スキッドによる制御
スキッドとは、回転するクランクを意図的にペダルを固定し後輪をロックさせて滑らせるトリック(自転車芸)のことです。分かりやすく言うと所謂「チャリドリ」で、幼い頃に遊んだことがある方も多いのではないでしょうか。やるとかなり目立つのでパフォーマンスとして取り入れるのはもちろんのこと、リムブレーキと併せて使用することでロードバイク以上の制動性能を引き出すことができます。
簡単そうに聞こえますが、やってみると意外とコレが難しい・・・。普通に止めようとしてもバイクの構造的に体重がリア側に傾いてしまい、うまくいきません。スキッドを行うタイミングに合わせてリアホイールに掛かる荷重を抜いてあげる必要があります。リアホイールに掛かる荷重を、前方ハンドル近く体を寄せてフロント側にかけることによってリアの荷重を抜き、リアホイールをロックさせるという流れが一連の動作となります。
★参考動画 https://www.youtube.com/watch?v=t-hn3qq9MvY
リアホイールの荷重の抜き具合によって、スキッドの制動力の強さや制動距離が変わり、大きく分けて「ショートスキッド」「ミドルスキッド」「ロングスキッド」の3つに分類されます。
ショートスキッド
ショートスキッドはバイクスピードの微調整、ペダル位置調整の為にもちいる文字通り動作距離が極端に短いスキッドです。「滑らせる」というよりは「跳ねる」に近い動作となります。
少しお尻を浮かせるか、サドルに浅く座ったまま後輪をポンポンと跳ねさせながらロックします。一番良く使うのが信号待ちの際で、一般的にピストバイクに状擦る際にはペダルストラップかトゥクリップを用いることが多いですが、ペダル位置によって再スタートがし辛い場合がままあります。そういった場合に荷重を掛けやすい位置に調整する為にショートスキッドを行います。こちらの応用で走行中にショートスキッドを連続で行う動作を「スキッピング」といい、こちらはバイクパフォーマンスの色が濃くなる動作です。多少の減速は見込めますが、お遊び重視な動作ですね。
ミドルスキッド
ミドルスキッドは3種類の中で一番制動力が高い動作になります。ブレーキとして使用するのはこのミドルスキッドです。
スピードが乗った状態でハンドルとサドルの中間辺りに腰を移動させ、リアホイールの荷重を抜きます。地面と水平な位置にクランクが来時にリアホイールを一気にロックさせます。その際に後ろにある方の足はペダルを突っ張り、荷重を強く掛けます。前にある方の足はペダルストラップやトゥクリップを上側に引っ張るようにして荷重を抜きます。この前足、後ろ足の動作をリンクさせることが一番重要であり、難しくもある点になります。
ロングスキッド
ロングスキッドは、バイクに掛かる全荷重をフロント側に傾け、路面を長く滑る動作です。制動性能を求めるものではなく、パフォーマンス重視のトリックとなります。
前述のミドルスキッドとは違い、サドルからお尻を浮かせてハンドルバーももの付け根辺りを近づける動作を行い、全荷重をフロント側のみに傾けます。後ろ側のペダルがブレないように辛抱強く固定することが重要です。
きちんと荷重がフロント側に傾いていないと距離が出ずすぐに止まるか落車しそうになってしまいます。上手なライダーはレーシングカーのドリフトのように鮮やかな動作で路面を滑らせることができます。
動作時に前側にある方の足に意識がいってしまいがちですが、ロングスキッドは後ろ側にある方の足で踏ん張ってクランクの回転を止めることを強く意識することがコツです。
ロングスキッドは公道で行うことは推奨できません。あくまでパークやトラックのようなクローズドコースで楽しみましょう。この辺りはスポーツ車のドリフト走行と似たような感じですね。世間体、人の目を気にする事も大事です。
リムブレーキによる制御
バイクの前後に備わっているリムブレーキで制動する方法です。基本的にロードバイク用のサイドプルと呼ばれる規格のものが装着されているバイクがほとんどですが、中にはMTBのVブレーキが採用されているモデルもあります。ロードバイク自体が油圧のディスクブレーキへ移行しているので、今後はピストバイクも油圧化の流れがくるかもしれませんね。
下り坂問題
平地で楽しむ分にはロードバイク等他のバイクとの差は余り感じないのですが、一番恐怖に感じるのが下り坂です。リムブレーキだけで止まりきる事もできなくはないですが、より強い制動性能を求められるシーンが多くなりますので、リムブレーキに加えてミドルスキッドに近い動作を取り入れる荷重移動を併用するようなブレーキングが効果的です。登りは気合いで登るしかない・・・!! 諦めましょう(笑)
参考動画 https://www.youtube.com/watch?v=3uAtC8ceGCk
スキッドの練習時は転倒が予想されますので、河川敷等落車しても問題ない広い場所で練習しましょう!!自転車のパーツも安価なものに付け替えることをおすすめします(笑)それでは、今回はこの辺りで。
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