ピストバイクとは
「ピストバイク」ってそもそもナニ?
「ピストバイク」とは、本来は専用のトラック(競技場)を走行するための競技用自転車です。
語源の”piste”はフランス語で滑走路やサーキット、狭義では自転車競技場を指し、イタリア語では”PISTA”となります。PISTA、ピスタ、ピスト・・・言葉の由来はそんな感じですね。
“PISTA”という呼び名は自転車だけではなく、かのフェラーリ等のレーシングカーにも呼び名が付いていたりしますね。純粋な競技専用の自転車といったところでしょうか。
そんなピストバイクの魅力について書いていきます!
ピストバイクのルーツ
「ピストバイク」とは俗称であり、正式名称としては「トラックレーサー」が最もかしこまった呼び方となります。
他の呼び方としては「ピスト」、「ピストレーサー」、「トラックバイク」等があります。
日本においては競輪競技に使用されている自転車も、広義の上では「トラックレーサー」に含まれています。
ピストバイクのルーツは専用の競技場で使用される”競技専用”自転車であり、前述の通りそもそも公道では使用されない為、いわゆる「ノーブレーキピスト」とは呼ばれません。
まさにピュアレーサー。車でいうとこの車検に通らないサーキット専用のGTカー等のレーシングカーのような位置付けですね。「ナンバープレートなし! マフラー超うるさい!! 車高ぺたぺた!!!」そんな車を町中で乗っては違法ですよね。
これと同じで競技専用自転車は街乗りできません。
ロードバイクとの違い
それでは次に、現在の主流である「ロードバイク」との違いを知っていきましょう。大きな違いは以下の3つが挙げられます。
①変速機が装着されていない!
②ブレーキが装着されていない!
③前に漕げば前方に、後ろに漕げば後方に進行する!
大多数の人は「えっ・・・!?なんだか危なすぎだし、必要な部品足りなさすぎじゃない!?」って思われることでしょう。
もちろん①、②、③全てに(※例外あり)という注釈が入るのですが、ざっくり言うと違いはこんなものです。
正直テキストを書いている私も文字に起こすとなんて馬鹿げた乗り物なんだと思ってしまいました。
しかしロードバイクにはない良さがいっぱいありますし、 「シンプル・イズ・ベスト」なポリシーの方には非常に相性がいいバイクでもあります。
それではひとつずつ違いを見ていきましょう。
①変速機が装着されていない!
ロードバイクは前が2段、後ろが8段〜11段(最近では12段や13段も!!)変速ギアが付いているものがほとんどです。
一方ピストバイクには変速機能はありません。
フロントディレイラー(前方変速機)、リアディレイラー(後方変速機)に加え、それらを制御するシフター(変速レバー)、及び繋ぐワイヤー類が備わっていません。ないない尽くしです。
写真で比較すると分かりやすいですが、リアディレイラーの台座(ディレイラーハンガーと呼びます)がなく、チェーンを引っ張ってチェーンテンションを調整することができるよう、真っ直ぐなリアエンドの金具が備わっています。
ワイヤー類を通す必要がないので、ロードバイクのようにフレームにワイヤーの口がいっぱい空いていたりといったこともありません。
非常にシンプルなので後にも触れますが、美観の上では勝っていると言ってもいいのではないでしょうか。
②ブレーキが装着されていない!
・・・はい。付いてないんです。最近では街乗り用として前後ともブレーキが装着されていたり、販売時は付いていないけどブレーキ装着の台座がフレームにそなわっており、後付できるモデルもラインナップされています。
しかし競技専用のフレームはそもそも後付けできるような機構になっていません。
無理やり装着できなくはないですが、穴あけ等のフレームの大掛かりな加工やワンオフ的な台座パーツの購入等が必要になります。
「じゃぁどうやって止まるの?」といった疑問が出てくると思いますが、こちらは次の項目で触れましょう。
③前に漕げば前方に、後ろに漕げば後方に進行する!
「普通そうなんじゃないの?」と思われる方はお持ちの自転車を思い出してみましょう。
前に漕げば当たり前ですが前方に進みますよね。後ろに漕げばどうなりますでしょうか。
ペダルが空転しカラカラと音がなり後ろには進まないはずです。これは後輪のギアが空走状態になりペダルを漕いだ慣性で自転車が進む(後ろ側のホイールが転がる)構造になっているからです。
ピストバイクは「固定ギア」と呼ばれる特殊なギアが後輪に装着されており、空走状態にはなりません。
ペダルと車輪が直結していて逆に漕ぐと後進する構造になっております。
実際に後ろに漕ぐことは自転車芸(トリックと呼びます)のような遊び方をしない限りはありません。
“後ろに漕ぐ”のではなく”足で抑え込んで回転を止める”ことにより自転車の前進が止まり、ブレーキのような役割を果たすことが出来ます。
以上、細かく見ていくと更に違いはあるのですが、大きなところではこの3つが挙げられます。
あれもこれも”ない”自転車であることが分かります。
「じゃぁ、ロードバイクに乗ればいいじゃん?」となるとは思いますが、そんなピストバイクの魅力に惹かれるライダーは今も多く、中古市場においても高額で取引されている車両がかなりあるのも事実です。
(当店も高額買取しております!!)
ピストバイクの良い点、悪い点
それでは、そんなピストバイクのメリット・デメリットを比較対象をロードバイクに絞って見ていきましょう。
他のバイクに比べてイイトコロ
①バイクの仕上がりがシンプルで美しい!
ディレイラーやシフターがなく、フレームに各パーツの台座や穴をあける必要がないのでフレーム本体の造形が非常にシンプルになっています。ロードバイクだとロゴやデザインの箇所にかなり制限が出てきてしまいますが、ピストバイクはそんな事はありません。
また、パーツも性能というよりはデザイン寄りのパーツが豊富にラインナップされており、カラーカスタム等が施しやすいという傾向にあります。
②比較的ローコストに組み上げることができる!
ロードバイクのどこにお金がかかっているかと言うとやはり変速周りやデジモノ(サイコンやセンサー等)になります。
そういったゴテゴテとしたパーツが全てないのでかなりコストカットされており、新車価格も抑え気味です。
もちろん高額車も多数ラインナップがありますが、10万円も出せばかなりのグレードの完成車が買えちゃうのがピストバイクです。
完成車ではなく、フレームセット販売が多いのも特徴でしょうか。
組み上げのハードルは高いですが、自由度も非常に高くなっています。
③ファッション性が高い!
街乗りに限ってのお話にはなりますが、ピストバイクはロードバイクと比べラフな格好で乗車するスタイルが一般的です。
ピチピチのサイクルウェアにがっちりヘルメットやアイウェアを纏って胸にはハートレートセンサーを・・・そんな方はほとんどいません。ハーフパンツにTシャツやパーカー、サイクルキャップにカスク等簡易ヘルメットという方が多いのではないでしょうか。
一昔前は海外メッセンジャーへの憧れから真似するライダーが現れ、現在はストリートファッションアイテムとしてピストやBMXが取り扱われるケースが多いです。
実際にアパレルブランドとのコラボアイテムも非常に多く、この辺りはスケボー等のカルチャーに似ているかもしれません。
H&M LANE BIKES
https://openers.jp/Gallery/319173?gallery_page=8 より引用
こちらの画像はファストファッションでおなじみのH&Mのコラボモデルです。爽やかなファッションとホワイトのホイールが絶妙にマッチしていますね!!
④ライド時のダイレクトさが段違い!
「自分の足で漕いだ分だけ進む感」と言う表現になりますでしょうか、ボキャブラリーの足りなさが悔しいですが、そんな感じです。
こればっかりは実際に乗ってみないと分からないと思いますので、ぜひ試乗等出来る機会がありましたら積極的に楽しんで感じてみましょう!
正直う〜ん・・・という点
①やっぱり危ない・・・
先程の項目で触れたブレーキ動作について、どうしても不安がこ残るのは否定できません。
高速走行から制動させるには「スキッド」と言われる技術が用いられますが、本来停止ではなく速度を調整するためのテクニックであり、ロードバイクのように高速走行から緊急停止する等の動作はその構造上プロ選手であっても出来ません。
高速走行中にスキッドを行った場合は、ペダリングの慣性で上体が浮き上がってしまい、転倒や落者等大きな事故に繋がってしまいかねません。
これは非常に危ないですね。但しこれはブレーキが付いていない場合の話であり、ブレーキが付いている場合はロードバイク同様に制動できます。
ブレーキによる制動性能に自身の足による制動動作が加わり、慣れるとロードバイク以上にブレーキングが可能となります。
また、ブレーキを装着するかしないか、この点においてメリットの方で触れたバイク自体のシンプルさとのジレンマが生まれてしまうのもネックとなります。
「ブレーキない方がかっこいい。でも付けなきゃいけない。」このもやもやは公道走行を楽しむ上でどうしようもありません。
②「ノーブレーキピスト」という世間の認識
海外ライダーが公開しているライド動画やファッション雑誌等に触発され、ノーブレーキ状態で行動を走行する方が残念にも出てきてしまった事が偏見の始まりでしょう。
「ピスト=危ない」遂には「ピスト乗ってる人=なんか悪そうな奴」扱いをされてしまう傾向が根付いてしまっています。
前後ブレーキが付いていないバイクで日本の公道や、公園や駐車場等公共の場所において走行する行為は、必須装備が備わっていない為、道路交通法違反(※制動装置不良)となります。
自転車の制動装置は道路交通法施行規則により「前車輪及び後車輪を制動すること」と定められています。
現在市販されているピストバイクは前後ブレーキの装着が標準となっていたり、フレームにブレーキホールが設けられ購入後にポン付け出来たりとある程度の対策が施されていますが、一昔前まではそうではありませんでした。
「ブレーキなし、問題なし。」という認識はもう古いです。ブレーキはきちんと装着した上で公道走行を楽しみましょう。
③坂道がキツい・・・
変速ギアがないのでこればっかりはどうしようもないです。
そもそも登坂するようなシーンでは乗らないのがセオリーです。
いざ高い丘を必死に登っても下る時はそれはそれで固定ギアではやや危険です。
こういった特性からアップダウンのない平地のシティライド向けな自転車という位置付けになっています。
ストリートシーンでの人気が高いのはこの理由からでもあります。
「競技用」と「街乗り用」の違いって?
ロードバイクとの違いやメリット・デメリットを見てきましたが、次はピストバイクのジャンル内での違いをみていきましょう。
大きく分けて2つに別れ、更にそこから細分化されていくようなジャンル分けがなされています。
「競技用」ピストバイク
BOMA SWOOP TRK NJS
http://www.boma.jp/en/products/frame_set/swoop_trk/index.html より引用
日本において競技用自転車として真っ先に思い浮かぶのが競輪でしょう。競輪に用いられるバイクはピストバイクのルーツとなる自転車です。
規格がかなり厳密に定められており、認可が降りたビルダーしかレース参戦が出来るバイクを製造できません。
鉄フレームに鉄パーツ多数。無骨なルックスのバイクは好みが分かれそうですね。
ガールズケイリン パンフレット
https://www.girlskeirin.com/funcontents/img/%e8%a1%a8%e7%b4%99.pdf?utm_source=pamphlet より引用
おっさん臭い印象のジャンルではありますが、2012年より「ガールズケイリン」が開催されてからは華のある競技になったと思います。
こちらは国際競技のようにカーボンフレームやカーボンホイールが使用されることもあり、かなりロードバイクよりなルックスとなっています。
オリンピック競技の「SPRINT」や「OMNIUM」はよりロードバイクに近い形のバイクが採用されています。
いずれもブレーキ台座はなく、そもそも装着できる作りにもなっていません。あくまで競技場を走る為だけの「競技用」です。
基本的にはオーダーバイクがほとんどな為、かなり高額なものが多いのが特徴です。
一般人の入手経路としては選手のお下がり等中古流通品がほとんどになるでしょう。
RHC 公式サイト
https://redhookcrit.com/history/brooklyn-no-11/ より引用
海外レースでは市街地にクローズドコースを作り、まるでストリートレースのように疾走する過激な大会も開催されています。
こちらはクラッシュ等大きな事故も多く非常に危険な印象ですが、そのクラッシュも含めて見て楽しむような競技として成り立っています。
この辺りは日本との文化・感性の違いが大きく出ていますね。
「街乗り用」ピストバイク
それでは競技用ではないいわゆる「街乗り用」ピストバイクとはどのようなものでしょうか。
ざっくり言いますとブレーキが完成車として装着してある、もしくは後付が容易にできるバイクをさします。有名所ではcinelli、LEADERBIKES、Fuji、AFFINITYやSURLY等が挙げられます。
これらはシティライドを目的に作られており、メッセンジャーから根強い人気があります。ファッションとしての人気が高いのもこちらになります。
今回はピストバイクの魅力について広く浅く触れてみました。今後は更に深堀りしていこうと思いますので、お時間許せばお読み頂けましたら幸いです。
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