はじめに
6月26日にツール・ド・フランスが開幕しました。私も2003年にたまたま観ていたレースで興味を持つようになり、毎年楽しみに観戦していました。
それが、なぜかここ10年程は観られなくてもまあいいかという、どこか冷めた気持ちになってしまっています。
興味がなくなってしまったというわけではありません。開幕前には前哨戦であるツール・ド・スイスやドーフィネの結果をチェックしたり、インタビュー記事を検索してみたりで、ワクワクしながら過ごすのですが、なんとしてでも夜中まで起きて観戦するというモチベーションが無くなっています。
そうかと言って録画で観るかというとそうでもありません。すでに結果の出ているレースをじっくり眺め続けられるほどの、マニアックで成熟した視聴者にはなれそうもありません。
そんな中途半端な私がツール・ド・フランスをご紹介したいと思います。
ツール・ド・フランスってどんなレース?
ツール・ド・フランスとは、「フランス一周」という意味で、毎年7月に行われる、自転車ロードレース界最大のレースです。さらに、サッカーワールドカップ、オリンピックとともに世界三大スポーツイベントとも称されます。
また、レース映像は190か国以上で中継、配信されその視聴者数は35億人にも達するそうです。
その名の通りレースは23日間でフランスやその周辺国を駆け巡ります。
パリ・シャンゼリゼ通りの最終ゴール地点までの総走行距離は3,300km以上!日本に置き換えるならば北海道〜沖縄、もしくは淡路島22周くらいの距離にあたります。
中には1日で1,500m〜2,000m級の峠を登っては下って、また登ってなんていうステージもいくつか設定されています。
常人には考えられないような、変人でも躊躇するようなルートを辿っての3,300kmです。ちなみに23日間のレース日程のうち、お休みは2日だけです。
ツール・ド・フランスの他にもジロ・デ・イタリア、ブエルタエスパーニャといったグランツールと呼ばれるレースがあります。
ジロやブエルタのステージには20%を超える激坂や未舗装路といったキワモノ的なコース設定がされることが多々あります。単純なコースプロファイルではこれらのレースの方が厳しいように思えます。
でも全然そんなことはありません。ツールはロードレースの年間スケジュールの中で最もステータスの高い大会です。
総合優勝はもちろん、ステージ勝利を挙げることができれば選手としてのキャリアに大きな影響があります。もちろん出場するだけでも大変名誉なことで毎年200人程の選手しか出場することができません。ちなみに約120年の歴史の中、出場を果たした日本人は4人だけです。
ですので、選手たちのやる気の高さがハンパじゃありません。「いのち大事に」な状況でも「ガンガンいこうぜ」とばかりに前へ前へと走ります。とあるチームのGMが語った、「全選手がブレーキをかけない唯一のレース。」というコメントもあながち冗談とも言い切れません。
ツールのレースの厳しさは選手達が作り出しています。
ツールの見どころ・良さ
ツールの見どころはレベルの高いレースそのものの魅力はもちろんですが、舞台となる各ステージの風景の美しさ、沿道で選手を鼓舞する観客の熱気にも要注目です。
主催者のコース設定がうまいのか、夏開催という時期的なものなのか、どのシーンを切り取っても絵になります。
一面のひまわり畑、湖の畔に佇む古城、草も生えない荒涼とした山道。ツールを誘致した町や村が総出でキャラバンを迎えるために準備した演出や巨大なオブジェ等。
「悪魔おじさん」「テキサスロングホーン」といった愛称をもつ名物おじさんもいます。悪魔おじさんは有名になりすぎて、自分をモチーフにしたグッズ販売を始めたので、スポンサーとの兼ね合いもあり意図的にテレビに映されなくなった時期もあります。
名物おじさん以外にも、自分で用意したプラカードや道路に推しの選手の名前等をペイントして応援しています。
今年は第1ステージで観客の女性が持ったプラカードに選手が接触して集団落車事故が起きました。
優勝候補の選手がリタイヤやしたり、怪我によって総合優勝争いからいきなり脱落したりと大変な事件になりました。過去にも、犬が飛び出したり、観客の持っていたビニール袋に引っかかったりして有力選手が落車するということも私が観ていたレースで何度かありました。
だからといって、すぐに観客を規制するような対策は取られていません。そういうおおらかさというか懐の広さに伝統や歴史が感じられます。
もちろん命の危険がある行為は取り締まられて然るべきですが、観客もレースの一部ととらえているような姿勢は素晴らしいと思います。
そして、正に難関山岳ステージで狂気をはらんだ熱狂を放つ観客の波と、その波を割って黙々と峠の頂上を目指す選手とのコントラストこそが私の思う最大の見どころです。
余談ですが、とりわけ熱狂的に旗を振りながら応援するバスク応援団のエネルギーの源は赤ワインのコーラ割りだそうです。
過去の選手のエピソード
私が今まで観たり聞いたりした中で、印象に残っている選手のエピソードを2つご紹介したいと思います。
アレッサンドロ・ペタッキ
私がサイクルロードレースに興味を持つきっかけになった選手。ファッサボルトロチームに所属していた時代は正に最強スプリンターで、完全なるトレイン(若かりし頃のカンチェラーラもいました。)から最後の200mで発射されると、他のスプリンターを寄せ付けず確実に勝利する姿は圧巻でした。
当時、ロードレースに興味を持ち始めたばかりで、ランス・アームストロングくらいしか名前を聞いたことがある選手はいませんでした。
ツールを何回も制覇している選手が全然目立ってない中、毎日のように勝利を積み上げる選手が何故チャンピオンになれないのか不思議に思いました。
今となれば総合順位は各ステージのゴールタイムを合計すること、集団ゴールは先頭から最後尾の選手までタイム差がつかないこと等、レースの基本的なルールがわかっているので理解できますが、当時は本当に不思議でした。
ただ、何故チャンピオンになれないかは、基本的なルールを知らなくてもすぐにわかりました。山を登れないのです。登れないというか、登らない。本格的な山岳ステージが登場するとさっさとリタイアしてしまいます。
スプリンタータイプの選手は基本的に筋肉量が多く重いので山岳ステージではグルペットという集団を形成して何とかみんなでやり過ごしながら、完走を目指します。多分当時のペタッキはそもそも完走はスタート前から目標にしていなかったと思います。
山が出てくる前に勝ちまくって、バケーションを楽しもうくらいしか考えてなかったのではないでしょうか。
「だって、無理だし。しんどいし。」とばかりにスパッとレースから去る姿、途中リタイア前提でも、それまでに十分過ぎる程の結果を残すところにカッコよさを感じました。
その後2010にマイヨ・ベールを獲得するのですが、その時はステージ2勝。この年は第7ステージでリタイヤするまでに4勝しています。
エディ・メルクス
ツール通算5勝、ステージ勝利数最多の34勝を記録する、ベルギーが誇る史上最強の選手(今年カベンディッシュが第13ステージの勝利で記録に並びました!)。どんなレースでも貪欲に勝ちに行く姿勢から、「カニバル(人食い)」の異名を持つとんでもない選手。
とにかく強過ぎるくらい強いので、1975年の山岳ステージでフランス人の観客に思いっきり脇腹を殴られてしまうという事件が起こってしまうほどです。この事件がきっかけで、調子を落としてしまい、結局この年は総合2位でフィニッシュ。それでも2位で終わるところがやっぱりすごい。
ただ、この事件以降、マイヨ・ジョーヌに袖を通すことはなかったそうです。
これらはツールの4つのカテゴリーでトップの選手に贈られるジャージです。
・マイヨ・ジョーヌ
マイヨ・ジョーヌは総合成績トップに選手に贈られる黄色のジャージです。
・マイヨ・ベール
マイヨ・ベールはポイント賞トップすなわち、最強のスプリンターに贈られる緑色のジャージです。
・マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
このジャージは山岳賞。最も強いクライマーに贈られる、白地に赤の水玉模様のジャージです。
・マイヨ・ブラン
こちらは新人賞。25歳以下の若い選手の中で最も速い選手に贈られる、真っ白なジャージです。
最後に
2021ツール・ド・フランスはこのブログをアップする頃には終了しています。(総合優勝は十中八九ポガチャル)ちょっと観てみようかなと思われても、時すでに遅しです。
そして、今年も私はレースを生で観戦しませんでした。それでも来年のツールが楽しみです。
さらに再来年はバスク地方のビルバオがスタート地点に決定しているとの噂もあります。
再来年こそはスタートからゴールまでじっくり観戦したいと思います。
Photo : ASO
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